自然の中で、有機野菜のおかずを美味しく楽しむ 南房総「百姓屋敷じろえむ」

麦わら帽子に真っ白なワンピース…。いい年こいてこの姿の女性に心が揺らめく。オノちんこと、辛口評論家の小野員裕です。
今回は自然豊かな環境で、農家で作られた新鮮な食事を楽しもう。
有機農法、非有機農法で作られた野菜では、いずれも栄養面ではそれほど変わりないみたいだけど、有機野菜のほうが「抗酸化物質」の割合がかなり高いそうだ。それとあわせて、何よりも残留農薬を身体に取り入れないっていうのが一番いいよね。
それと、自然豊かな環境に触れることは体がリフレッシュされるんだな。よくフィトンチッド効果なんて言われるのは、森林浴で感じる香り、その正体が「フィトンチッド」と呼ばれる成分なんだって。
フィトンチッドは植物が、身を守るために出している複合物質。森林浴の香り成分には、テルペン類が多く含まれていて、ミントのメントール、柑橘のリモネンなど爽快な香りで気持ちをスッキリさせる作用がある。
その効果は、気持ちを落ち着き、深いリラックスが得られ、血圧や心拍数の安定、自律神経を正常に戻し、快眠効果、集中力の向上など盛りだくさん。
日々のデスクワークや上司との折衝でなんとなくストレスがたまり気味のすっぴん美人も、時には自然の中で食事をすることで、心も体も癒されていくなんてのもいいいんじゃない。
「たまには体にいい食事せーへん? 大地の気ぃ受けて、樹木に触れ合って、体に溜まった静電気放出するとメチャいいねんて、あとはフィトンチッド効果やな」
昔、阿佐ヶ谷の飲み屋で知り合った女友達からのメールだった。「体にいい食事か…」なんか合点の行くものがあり、2人千葉県南房総市へ旅立った。
首都高5号線「西神田入口」から富津館山自動車道「富浦インター」を降り、127号線を山側へ「百姓屋敷じろえむ」が現れる。およそ2時間半の道のり。予約の時間までちょい時間があり、駐車場に止めて近所を散策。農業用の溜池の周りには「菜の花畑」。
「黄色と緑がきれいだね」
「ホンマやね。来てよかったわ」
と彼女、傍らの竹林に入り、太めの淡竹(ハチク)に抱きついている。
「何してるの?」
「体に溜まった静電気を大地に放出してんねん」
なんかの効果がありそうなので、ボクも真似てみた。う~ん気持ちいい。
「百姓屋敷じろえむ」へのアプローチは少々長く、ボクたちを出迎える門の巨大さに驚かされる。多分この辺りの豪農だったに違いない。
「いらっしゃいませ」
迎えてくれたのは70前後のご主人。300年ほど前に建てられたという母屋へ、ご先祖様の遺影が並べられた仏間に通された。
「食事楽しみやな」
ここの予算は1,500~3,000円、品数によって値段が決まるようで、事前に2,000円のコースを予約していた。まずは緑茶をすすりしばしの休息。
釜戸で炊き上げたおひつに入ったご飯が運ばれ、しばらくするとお盆にデコレートされた料理の登場。
野菜やお米は有機農法で育てられたものとか。とりあえずの品数は6皿。一番上左手から、「キャベツのゴマ油のマリネ」、「玉子焼きと菜の花のおひたし」、その下、丸い器が何かの「きんぴら」、隣が「ツクシの煮物」、楕円形の器に「ショウガの酢漬け、ナス味噌、大根の漬物、梅干、タクアン、左端がショウガの味噌漬け」、ご飯の上の丸く黒い器は、味見をしてみると、食べたことのない食感。どこか濃厚な味わい。
「これ、わかります?」
「ひょっとして、蘇ちゃいますの?」
「よくお分かりで、ほぼ正解ですね。これ実は醍醐(ダイゴ)なんですよ、言ってみれば日本のチーズのようなものですね」
まさか日本古来の乳製品「醍醐」が出てくるとは驚き。
「このあたりでは昔からタンパク源として、この醍醐を作ってた食べてたんですよ」とのことだ。
どのおかずも味付けがよく、菜の花やツクシなど早春の香り。
玉子焼きは火の通りがドンピシャ、トロトロで柔らか。
「うちはこの裏で養鶏所やってまして、平飼いしている鶏の有精卵です」
そう言えばさっきから遠くで鶏の鳴き声が盛んに聞こえている。
相当いい卵なのだろうけど、普通に美味しい、それ以上はわからない。ひょっとして研ぎ澄まされた生活を送れば、この卵の美味しさがもっと理解できるのかもしれない。
次に登場したのが、「自家製こんにゃくと長ネギの味噌和え」
こんにゃくは、どこかサクっとした舌触りは自家製らしい食感。
「自家製鶏肉のソーセージと菜の花、人参の付け合せ」
鶏肉のソーセージはいい塩加減で、優しい味わい。
なぜか最後に味噌汁が運ばれてくる。まるで寿司屋のようだ。
こういう優しいおかずをいただくと、プリミティブな欲求が湧いてしまうのか、食が進み、ご飯を彼女は2杯、ボクは4杯もいただいてしまった。
「オノちゃん食欲旺盛やな」
デザートは「甘酒の素と餡子に柚ジャム」これ暖かく、ほんのり甘くて美味しいね。
小1時間ほどで食事を終え「じろへむ」を後にする。
途中、畑に羊か1匹、寂しそうだったので近づくと、やはり人恋しかったのか羊がはしゃいでいた。
そして高速の手前で道の駅「鄙の里(ヒナノサト)」にある直売所で、地物野菜、クレソン、ニンジン、ネギなどを購入。
「スーパー銭湯」「里見の湯」でひとっ風呂浴び、高速に乗った。
途中ハイウエイオアシス「富楽里」に入り、地下にある惣菜屋が極めて良かった。
写真を撮り忘れてしまったけど、今時珍しくどの惣菜はすべて手作り「さんが焼き」、「つみれ汁」、「からあげ」、「鯨の竜田揚げ」どれも抜群に美味しかった。
ちょっと遠かったけど楽しい時間を過ごすことができた。日常の喧騒から、少しだけ現実逃避をしたいなんていうすっぴん美人にオススメの日帰りショートトリップだね。
〈店舗データ〉
【店名】百姓屋敷じろえむ
【住所】千葉県南房総市山名2011
【電話】0470-36-3872
【営業】10時~15時(完全予約制・また予約をすれば夕食可)
【休日】不定休
【アクセス】館山自動車道「富浦インター」から車で20分
JR内房線「館山駅前」から館山日東バス・丸線「川谷・細田行き」「御庄バス停」から徒歩15分
取材・文/小野員裕(おのかずひろ)
グルメライター/フードプロデューサー
出版社勤務のかたわら、食べ歩きエッセイの連載や食イベントに関わり、外食産業で注目を集める。17歳からカレーの食べ歩きを始め、「横濱カレーミュージアム」の初代名誉館長、「オールアバウト」のB級グルメガイドを務め、書籍・雑誌・テレビなど数多くのメディアで活躍する〝元祖カレー研究家〟。食べ歩いた軒数は、カレー専門店3000軒、飲食店10,000軒を越す。
その他、食品会社へのアドバイザーや、外食産業のフードプロデューサーとしては、カフェの店舗開発、高級レストランの調理素材、無添加・有機素材を吟味したレトルトのパスタ用ソース、ドレッシングなどの開発に携わる。
またオリジナルレトルトカレー「小野員裕の鳥肌の立つカレー」(MCC食品)は発売10数年以上好評を博するロングセラー。
食べ歩きのブログ「元祖カレー研究家」を日々更新。
主な著書に『カレー放浪記』(創森社)、『魂のラーメン』(プレジデント社)、『ラーメンのある町へ』(新潮社)、『東京カレー食べつくしガイド』(講談社)、『作務衣を着た主人の店に旨いものはない!』(双葉社)、『おうちで本格インドカレー』(東京書籍)、『絶品エスニックバルレシピ』(日東書院)、『明治・大正・昭和のレシピで食道楽』(洋泉社)、『今宵もぷらぷら居酒屋天国!』(学研)など多数。